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紫色の背景

入門編 1

日本の性売買の現状〜それって性搾取?〜 

 

「性風俗」「性売買」「売春」というと、ほとんどの場合、男が買う側で、女が買われる側という関係になっています。そこにどんな問題があるのか、考えてみませんか?

 

巨額の利益をあげる性搾取

 

まず、性産業は、男性に女性の性を売ることで巨額の利益をあげています。少し古い数字ですが、売上高はデリバリーヘルス2・5兆円、ソープランド1兆円、さらに「風俗」に分類されるキャバクラ1兆円程度とみて、推計6兆円とする見方もあります。これがどれほど巨大な規模かは、通販売上高が5兆900億円、人材派遣業が4兆4500億円、出版が1兆9000億円(2010-11年)などと比べてもわかります。しかも非合法の地下経済は含まれていません(中野2012)。少なくとも市場規模が数兆円に達するのは、間違いないでしょう。

 

この市場では、女性の性を「買いたい」という男性側の需要に応えるため、女性の「性交類似行為」(実態は「性交」を含む)を「売る」ことで成立しています。業者は、女性にたくさんの買春客の性の相手をさせればさせるほど、より多くの利益をあげることができます。

 

性売買には、女と男の性の取引というイメージ(図1)があります。しかし、性売買の実際のアクター(当事者)は、①買い手(主に男性)、②業者(複数、主に男性)、③売り手(主に女性)であり、①男性と②業者による③女性の性的身体の取引(図2)が行われています。ここで、①と②に女性への性搾取(性行為をさせて第3者が利益をあげること)が生じます。そして、忘れてならないのは​、④国家の役割です。国家(や地方自治体)がどんな法制度や政策をとるかが、①②③のあり方を左右するからです(後述)。

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巨額の利益をあげる性搾取

相場は2万円で、取り分は女の子1万円、Aが6000円、Bが4000円でした。LINEPayも使ったそうです。2人の少女(当時16歳、17歳)は2年前から1年2~6カ月間、「1000人くらいの客の相手をさせられて、身も心も病んできた感じがするんです。何とか売春クラブを取り締まって欲しいんです」と警察に電話して発覚しました。売春防止法違反と児童福祉法違反の疑いで2人は逮捕されました。

東京にあるソープランドの責任者ら5人が2020年、女性従業員が「売春」すると知りながら個室を提供した疑いがあるとして逮捕され、店がこれまで約10億円を売り上げていました(テレ朝NEWS、2020年8月26日)。

その規模について、事例をみましょう。

 

客とトラブルになったことから通報されたケースです。法で禁止されたはずの「売春」(後述)が行われ、約10億円という莫大な売り上げをあげていたことがわかります。

 

「身も心も病む」性搾取事件〜千人の男性に買われて〜

しかも、女性の身体さえあれば「商売」になるので、一般人が参入する例が後をたちません。2019年に実際に起こった事件をみましょう。元会社員(A、B)2人は、SNSを使って、Aが「女の子」を募集、Bが買春客を募集し「売春」を斡旋しました(2019年11月2日日刊ゲンダイDIGITAL)。

 

詳しくみましょう。

 

 

 

 

 

性売買を斡旋した男性(A・B)2人は3年間で約6000万円を売り上げ、被告Aは「割のいい仕事だった」と語りました。少女たちは1日に複数回、合計1000人もの相手をさせられ、取り分の半分の収入だけで「身も心も病」むほど、性搾取されたことがわかります。

 

性産業は、女性を性搾取することで成立し、業者は巨額の利益を得ています。しかし女性や少女たちがたくさんのリスクにさらされることは見逃せません。

 

性売買と3つの法律

 

次に、性売買に関する④国家の法制度の問題点をみてみましょう。

まず、⑴日本の売春防止法(売防法)は一応、「売春」と「その相手方になる」こと(=買春)を禁止しています。この「売春」とは、金銭などをもらう不特定の相手への「性交」のことです。しかし売防法には女性への性搾取を防止する上で改めるべき問題があります。

 

1つ目に、この法は売春や買春では処罰されません。ところが、「売春」目的で勧誘する行為をすると検挙されます(表の「勧誘等」参照。毎年200件ほど、大半は女性)。一方、買春目的の勧誘(ナンパなど)で処罰されることはありません。つまり、売春する者(主に女性)に厳しく、買春する者(主に男性)には寛容なのです。

 

2つ目に、禁止されている性行為が「性交」だけを指すため、定義がせますぎて、性交を伴わない「性交類似行為」などの性行為であれば、「売春」でないと言い逃れができます。

性売買と3つの法律
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出典:警察庁生活安全局保安課「令和3年における風俗営業等の現状と風俗関係事犯の取締り状況等について」2022年

そのため、売防法ができるとすぐ「性交類似行為」等をする性風俗店が続々登場しました。⑵「風俗営業等適正化法」(風営法)という法律があり、一定の手続きで「性交類似行為」等をさせる業種が合法化されています。ソープランド、デリバリーヘルス、ピンサロ、ファッションヘルス、出会い系喫茶などです。この「性交類似行為」とは、性交ではなく、性交以外の性的行為という意味ですが、このタテマエをつかって、さまざまな性風俗店が日常生活にあふれるようになりました。そのなかで、実際は「性交」が行われている(強いられる場合もある)のが現状です。

 

また、⑶児童買春・児童ポルノ等処罰法によれば、18歳未満の子ども(児童)には、「性交」だけでなく「性交類似行為」をさせることも違法です。しかし、「JKビジネス」(男性客に女子高生による接客を提供するビジネス)として世界的に有名になるほど、お散歩、カフェ、見学、撮影などに隠れて、違法行為も行われたりして(裏オプ)、巨大な市場になっています。女子高生が親や学校社会に人間関係がないという「関係性の貧困」がJKビジネスに取り込まれる背景にある点も見落とせません(仁藤2014など参照)。

 

では、女性や女子高生は、業者や男性客と対等でしょうか。自由に性売買をやめることができるのでしょうか。女子高生の場合、警察への相談事例に「インターネット上に自分のことを書き込まれた」などの嫌がらせ、「客に体を触られた」といった被害、「店で知り合った客につきまとわれている」といったストーカー被害、「店を辞めたいのに店長が辞めさせてくれない」といった深刻なトラブルがあります(「いわゆるJKビジネスにおける犯罪 防止対策の在り方に関する報告書」より)。

 

性売買の入り口は女性の経済力の弱さ

 

最後に、根本的な問題として、主に男性が買い/女性が買われるという関係になるのは、日本社会がジェンダー平等ではないためです。

 

日本の女性の地位は、驚くほど低いです。たとえば、各国の男女の格差を評価したジェンダーギャップ指数(2023年6月発表)では、日本は125位(146カ国中)と世界的にも最低ランクです。

 

とくに問題なのが、男性に比べ女性に経済力がないことです。男性正社員の年収(2020年)を100とすると、女性の年収は正社員70%、非正規は27%にすぎません(「民間給与実態統計調査」2021年より)。若い女性の3割以上が非正規雇用であり低賃金です。女性の賃金があまりに低いので、性風俗が高収入にみえることが「性売買」への入り口になっています。しかし、業者の搾取はひどいし、年齢を重ねると、高収入も長くは続きません。

 

このように、女性の経済力の弱さを背景に、経済力をもつ男性が女性の性を買い、

それを媒介する業者が巨大な利益をあげるという性搾取の構図があることがわかります。                               (2024.3.8)

   

 

<参考文献

  • 田由紀子(2013)『性と法律』岩波新書

  • 中野麻美(2012)「労働市場からみた性風俗と女性」『女たちの21世紀』No.72

  • 仁藤夢乃(2016)『難民高校生』英治出版、2013年、ちくま文庫

  • 仁藤夢乃(2014)『女子高生の裏社会』光文社

  • 「売春知りつつ個室提供か ソープランド責任者らが逮捕」テレ朝NEWS、2020年8月26日

  • 「1年超で1000人の客…17歳少女『売春クラブ』タレコミの発端は」 2019年11月2日日刊ゲンダイDIGITAL

  • 警察庁生活安全局保安課(2022)「令和3年における風俗営業等の現状と風俗関係事犯の取締り状況等について」2022年

  • 「いわゆるJKビジネスにおける犯罪 防止対策の在り方に関する報告書」(2016年)

  • 「民間給与実態統計調査」2021年

参考文献
性売買の入り口は女性の経済力の弱さ
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