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法律編 2

「風営法」って何? 
──何が問題なの?

性売買に関する法律には「売春防止法」と「風営法」があり、性交させる営業は売春防止法により禁止・処罰されている一方で、性交以外の性行為をさせる性風俗営業は風営法に従って適法に営業できることになっています。ここでは「風営法」について紹介し、どんな問題があるのかを見ていきます。

風営法とは?

 

風営法は、戦後直後の1948年に、風俗営業取締法という名称で制定されました。その後、何度も改正され(売春防止法が2022年までほぼ改正されなかったのと対照的です)、今日にいたっています(現在の名称は「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」)。

風営法の当初の立法目的は、売春や賭博などの風俗犯罪を予防することで、それらがとくに生じやすい次の3種類の業種が「風俗営業」として規制・管理の対象とされました。

  1. 客を接待して遊興、飲食させる営業(待合〔まちあい:貸席業〕、料理店、カフェーなど)

  2. 客にダンスをさせる営業(キャバレー、ダンスホールなど)

  3. 客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業(玉突場、麻雀店など)

 

風営法の規制・管理の対象になるということは、同法が求める条件を満たして営業を許可されれば、合法的に営業を営むことができることを意味します。1954年にパチンコ店が規制対象に追加され、55年には玉突場(ビリヤード)が対象から除外されたりしていますが、当時は、いわゆる「性風俗店」は規制対象に含まれていませんでした。というのも、当時は「赤線」で性交させる営業が認められていたので、性交類似行為しかさせない店など存在しなかったからです。それが登場するのは、1958年に売春防止法の、性交をさせる業者の処罰規定が施行され、「赤線」が消滅して以降です。
 

性風俗営業の取り込み

 

売春防止法の処罰規定が1958年に施行されると、いったん歓楽街の灯は消えたと言われています。しかし、間もなく、「手淫」「口淫」などの性交類似行為をさせる店や、違法な性交をさせることが暗黙の了解の個室付浴場が登場し、全国に拡大しました。1966年のある裁判所判決は、これらを「売春の業務が業態を変えて脱法的に行われる」ものと指摘しました。つまり、「脱法的売春」です。

本来は、脱法的営業が拡大したなら、売春防止法を改正・強化して取り締まるのが筋ですが、政府はそうしませんでした。政府がしたことは、風営法にそれら脱法的営業を取り込み、営業を認めることでした。

風営法が性風俗営業を最初に取り込んだのは、1966年の法改正においてで、その時、個室付浴場業と興業場営業(ストリップ劇場など)が法の規制対象に追加されました。しかし、個室付浴場の営業を風営法で認めることは、売春防止法違反の性交をさせる営業の公認にほかならず、「公娼制度の復活」「現代の公娼制度」などという厳しい批判にさらされました(高橋2004、209頁)。

1984年には、条文が8か条から51か条に増える全面改正が行なわれ、名称も現在のものに変更されました。この改正で、「風俗営業」と「風俗関連営業」が分けられ、さまざまな形態の性風俗営業が後者に整理されました(「風俗関連営業」は、現在は「性風俗関連特殊営業」)。

 

□性風俗営業を取り込んだ改正

1966年改正 個室付浴場業、興業場営業(ストリップ劇場など)を追加
1984年改正 以下の種々の性風俗営業を「風俗関連営業」に整理。

個室付浴場業、モーテル営業、ストリップ劇場、ラブホテル、アダルトショップなど

1998年改正 無店舗型性風俗(派遣型、ポルノビデオ通信販売)を追加
2001年改正 電話異性紹介営業(テレクラ)を追加

性風俗営業の規制

 

現行の風営法は、規制対象の営業を「風俗営業」と「性風俗関連特殊営業」とに分け(※)、前者を「許可制」、後者を「届出制」にし、営業時間や出店区域を制限したり、年少者の立ち入りを禁止したりしています。

※「特定遊興飲食店営業」「接客業務受託営業」については省略します。

① 風俗営業

「風俗営業」は、大きく「接待飲食等営業」と「遊技場営業」の2つに分かれ、ここで関係するのは前者です。

接待飲食等営業は、直接的に「性」風俗を営んでいるわけではありません(ただし年配の男性が若い女性を侍(はべ)らせ「接待」させるのは、どう見てもジェンダー差別でしょう)。しかし、「接待と飲食」カテゴリーには、性交が行なわれることが前提となった営業があります(大阪飛田新地の「料亭」など)。それが売春防止法違反を免れるための「屁理屈」は、(個室付浴場での性交の場合と同様)“店のあずかり知らぬところで女性と客の間に「自由恋愛」が発生し性交にいたった”ことなどと言われていますが、あり得ません。こうした脱法的営業を放任している警察当局は、女性差別を容認しているだけでなく、法治主義を掘り崩し、法に対する国民の信頼を損ねていると言わねばなりません。

 

② 性風俗関連特殊営業

「性風俗関連特殊営業」には、以下のものがあります。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「性風俗関連特殊営業」に関する主な規制をまとめると、以下のようになります。

接待飲食等営業

接待と飲食、接待と遊興・・・・・・料理店、キャバレー、キャバクラなど
低照度飲食店・・・・・・喫茶店、バーなど
区画席飲食店・・・・・・喫茶店、バーなど

遊技場営業

  麻雀店、パチンコ店など
  ゲームセンターなど

店舗型性風俗特殊営業

個室付浴場(ソープランド)
個室ファッションヘルス
ストリップ劇場、個室ビデオ店など
ラブホテル、モーテルなど
アダルトショップ
出会い系喫茶など

無店舗型性風俗特殊営業

派遣型ファッションヘルス(デリヘル)
アダルトビデオ等通信販売

映像送信型性風俗特殊営業

アダルトサイト運営

店舗型電話異性紹介営業

テレフォンクラブ

無店舗型電話異性紹介営業

ツーショットダイヤル、伝言ダイヤルなど

店舗型性風俗特殊営業

  • 営業の届け出

  • 官公庁、学校、図書館、児童福祉施設などから200メートル以内への出店、広告の禁止

  • 深夜における営業時間制限

  • 人の住居、広告制限区域等でのビラ等配布の禁止

  • 接客従業者に対する拘束的行為の規制

  • 客引きの禁止

  • 18歳未満の者の接客業務従事、客としての立ち入り禁止

  • 違反行為に対する営業停止、罰則

 

無店舗型性風俗特殊営業

  • 営業の届け出

  • 接客従業者に対する拘束的行為の規制

  • 18歳未満の者を接客業務従事、客とすることの禁止

  • 違反行為に対する営業停止、罰則

 

映像送信型性風俗特殊営業

  • 営業の届け出

  • 官公庁、学校、図書館、児童福祉施設などから200メートル以内での広告の禁止

  • 18歳未満の者を客とすることの禁止と違反への防止命令

 

店舗型電話異性紹介営業

  • 営業の届け出

  • 官公庁、学校、図書館、児童福祉施設などから200メートル以内への出店、広告の禁止 

  • 深夜における営業時間制限

  • 人の住居、広告制限区域等でのビラ等配布の禁止

  • 接客従業者に対する拘束的行為の規制

  • 客引きの禁止

  • 18歳未満の者の接客業務従事、客としての立ち入り禁止

  • 違反行為に対する営業停止、罰則

 

無店舗型電話異性紹介営業

  • 営業の届け出

  • 官公庁、学校、図書館、児童福祉施設などから200メートル以内での広告の禁止

  • 18歳未満の従業者を会話の当事者にすること、18歳未満の者に会話を取り次ぐことの禁止

  • 違反行為に対する営業停止、罰則

性風俗営業規制の問題点

 

以上、風営法が、性風俗営業を「適正化」(風営法の名称)の名のもとで規制対象に取り込み、営業を認めてきたことをみてきました。しかし、それには次のような重大な問題があります。

  1. 性交をさせていることが明白な営業を認め、売春防止法違反の営業を黙認していること。

  2. 性の売り手の「人としての尊厳」を害することが明白な「性交(売春)類似行為」をさせる営業を認めていること。

① 売春防止法違反が明白な営業の黙認
これは、性交をさせる営業であることが明白な「個室付浴場」や「接待飲食営業」を認めていることです。これらの営業は、売春防止法違反が明白であるにもかかわらず、警察などに黙認され続けています。これらの営業を取り締まることは、法治国家としての政府の義務です。「女性に対する暴力」の1つに位置づけている「売買春」を黙認しておいて、よくも政府は「男女共同参画社会の実現」「女性に対する暴力の根絶」などと言えるものです。

② 性交(売春)類似営業の容認
性風俗営業では、客に手や口で射精させる店があります。「性交」ではないため、売春防止法違反にはなりません。しかし、売春防止法は、「性交」をする「売春」が「人の尊厳を害する」としています。買春者が射精する場所が性の売り手の性器ではなく、口や手であれば性の売り手の「人としての尊厳」は害されないのでしょうか?

ある裁判所判決は、手で客に射精させる性交類似行為をさせられることを、「女性の人格を無視してこれを男性の快楽のための道具視する非人間的な業務である」と述べています(1966年12月16日東京地裁判決)。別の判決は、「手淫、口淫等の性交類似行為をする業務」は「婦人の人としての尊厳を害し、社会一般の通常の倫理、道徳観念に反して社会の善良な風俗を害するという点で、売春との間に実質的な違いは認められない」と指摘しています(2002年7月16日神戸地裁判決)(中里見2011)。これらの裁判所の言う通りではないでしょうか。

 

客と「性交」させられることが、女性にとって特別な侵害性はないという意味ではありません。見知らぬ相手と性交するほうが、手や口で射精させるよりも、心身に対する侵襲の度合いははるかに強く、また、いくら避妊措置をとっても妊娠する可能性もあります。性交のほうが、性の売り手の「性と生殖の権利・健康(リプロダクティブ・ライツ・ヘルス)」を甚(はなは)だしく侵害します。

しかし、手や口で、不特定の男性客相手に射精させる業務もまた、女性の人格を無視し、客の性欲を解消するための道具とみなす非人間的な業務であり、女性の「人としての尊厳を害する」のではないでしょうか。政府は、売春防止法を改正して、性交をさせる業者に限らず、手淫や口淫をさせる業者も禁止・処罰するべきです。
 

改正に向けて

 

買春罪を設けた北欧モデル立法においては、客が購入すると犯罪になる性行為は「性交」に限定されていません。つまり、「性交および性交類似行為」(韓国:部分的な北欧モデル導入国)や、性的な身体的接触を伴う性行為を広く意味する「性関係」や「性的サービス」(スウェーデン)などと規定されています。そこで、売春防止法における「売春」の定義を「性交」に限定せず、「性交類似行為」まで含めるよう改正する必要があります。そして、その改正と連動して風営法を改正し、「手淫」や「口淫」をさせる営業を風営法の規制対象から削除するべきです。

売春防止法および風営法改正の要点は以下の通りです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (2024.3.8)

法律名の変更。「売春」の定義の拡充。現在の「性交」から「性交および性交類似行為」などへ拡大する。

  • 風営法の改正

売春防止法の改正と連動して、風営法から少なくとも性交類似行為(脱法的売春)をさせる営業を削除する。これにより、性交類似行為をさせる営業は違法になり、業者は処罰される。

<参考文献>

  • ​高橋喜久江(2004)『売買春問題にとりくむ──性搾取と日本社会』明石書店

  • ​中里見博(2011)「性風俗営業の人権侵害性──『性交類似行為』をさせる営業等の違法性に関する諸判決」福島大学行政社会論集23巻3号

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